妊婦は予防接種できる?妊娠中授乳中にインフルエンザにかかったら?

冬を前にして気なるのはやはり体調管理。寒さから体調を崩しやすくなる季節ですが、風邪はもちろんのことインフルエンザの流行が怖いですよね。
妊娠している場合はとくに気になるものですが、予防接種や抗インフルエンザ薬の使用は一切できないのでしょうか?
そこで今回は、妊娠中や授乳中のインフルエンザ予防と対処について説明します。健康管理のためにぜひ参考にしてくださいね。
インフルエンザによる胎児への影響は?
インフルエンザに罹患することにより、胎児にどのような影響があるのでしょうか?
まず、インフルエンザウイルスそのものが胎児に直接影響を及ぼすことはありません。恐ろしいのは、インフルエンザの重症化による影響です。
妊娠中は免疫力が低下している等の理由により、インフルエンザに罹患すると肺炎を引き起こしたり治りが悪かったりと、重症化しやすい状態にあります。重症化による高熱などの影響で、早産や低体重児、先天異常などのリスクが高まるとされており、未然に重症化を防ぐことが重要です。
妊娠中にインフルエンザワクチンを摂取して大丈夫?
ただでさえつらいインフルエンザ。自身と赤ちゃんの健康のためにインフルエンザの罹患と重症化を防ぎたいところですが、そのために思いつくのはやはりインフルエンザワクチンの接種ですよね。
でも、妊娠中にワクチンを打っても大丈夫なのでしょうか?
結論から言うと、妊娠中にインフルエンザワクチンを接種しても問題ありません。
なぜ大丈夫なのかというということに関しては、ワクチンの種類が関係しています。
インフルエンザワクチンは「不活性化ワクチン」
ワクチンは抗体を作るために原因となる菌から作られますが、ウイルスの毒性を極度に弱くしたものを用いたタイプは「生ワクチン」、ウイルスの毒性を失わせた菌やその成分を用いたタイプは「不活性化ワクチン」と言います。
生ワクチンは体内でウイルスを繁殖させて抗体を作るためそのウイルスに感染したときと同じ症状が軽く出ることがある代わりに、1回接種するだけでも強い免疫を得ることができます。
逆に不活性化ワクチンは、接種によって得られる免疫は生ワクチンほど強くはなく、場合によっては期間を置いて数回接種することが推奨されますが、生ワクチンのように体内でウイルスが繁殖しないため安全性が非常に高いとされます。
インフルエンザワクチンはこの不活性化ワクチンであるため、妊娠中に接種しても大丈夫です。アメリカや日本国内でも、妊娠初期・中期・後期いずれの接種でも胎児への異常は認められず、その安全性は確かなものであることが確認されています。
(参考)日本感染症学雑誌第84巻第4号
赤ちゃんのためにもなる!
予防接種を受けて抗体が作られることで、赤ちゃんにも抗体が引き継がれます。
生後6ヶ月以内の赤ちゃんはインフルエンザワクチンの接種を受けることができませんが、産前であれば胎盤、産後であれば母乳を通して抗体を獲得することができるのです。
妊娠中・授乳中でも抗インフルエンザ薬は飲める
なお、タミフルやリレンザ等の抗インフルエンザ薬は、妊婦授乳婦でも問題なく服用できます。
抗インフルエンザ薬は発症から時間を置かず服用することにより重症化を防ぐ効果が期待でき、胎児への影響もないことがわかっています。
授乳中でも成分が母乳に移行することはほとんどなく、移行したとしてもごくごく微量であるため、赤ちゃんへの影響はないとされます。
(参考)妊娠・授乳と薬 対応基本手引き(改訂2版)2012年12月改訂 愛知県薬剤師会
いつ予防接種を受けるべき?
妊娠中でもインフルエンザワクチンを接種しても良いことがわかりましたが、いつ頃接種するのが効果的か知っておきましょう。
まず、接種を受けてすぐに抗体ができるわけではなく、効果を発揮するまでに2~3週間ほどかかります。そのためインフルエンザの流行シーズンに先駆けて、本格的に冬を迎える前(10~11月)に接種を受けると良いでしょう。
なお、インフルエンザワクチンを接種し、抗体ができてから5ヶ月ほど持つとされます。ただし抗体ができた時点から徐々に抗体は低下していきます。
予防接種を受けてもインフルエンザにかかることはある!
シーズン前にインフルエンザワクチンを接種すれば完璧!と思いたいところですが、ワクチンを接種してもインフルエンザにかかってしまうことは普通にあります。
まずはその理由を知っておきましょう。
ワクチンはウイルスの感染自体を防ぐことはできない
前提として、感染とはウイルスが体内に侵入し増殖している状態を指します。その後潜伏期間を経て症状が現れるのが通常の発症です。
風疹や麻疹のワクチンは感染自体を防ぐ役割がありますが、インフルエンザワクチンはあくまで「症状の重症化を防ぐ」ことを目的として接種されます。
そのため症状が表れることなく過ごせることもあれば、インフルエンザの諸症状が出てしまうこともあるのです。
違う型のインフルエンザウイルスに感染する可能性もある
まず、インフルエンザウイルスには大きく分けて3種類あります。
A型インフルエンザウイルス
高熱、咳、倦怠感、関節痛など様々な症状が強く出ます。
A型のなかでも144種類の亜型がありますが、香港型と呼ばれるものはたびたび猛威をふるうため、耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
B型インフルエンザウイルス
A型ほどの高熱は出ないものの、腹痛や下痢などの症状が出ることが多いタイプ。A型よりやや遅れて冬の終わりごろに流行するパターンが多いようです。
C型インフルエンザウイルス
ほかの2種と比較して感染力が弱く、症状も軽いとされます。
A型は3種類のなかで一番変異しやすい性質を持ち、A型に対する抗体を持っていても変異後のウイルスに対応できないことがあります。
なお、B型はA型よりも変異が少ないとされます。C型はさらに変異しにくく、一度かかって免疫が作られるとそれ以降は感染しにくくなります。
日本で使用されるインフルエンザワクチンは通常、世界保健機構の予測をもとに国立感染症研究所が選択し厚生労働省が決定したA型株とB型株それぞれ2つずつ、計4つの株に対して有効なワクチン(4価ワクチン)が製造されます。
以上の情報を踏まえると、「ワクチンを接種していたのにインフルエンザを発症してしまった!」という場合は、
- 接種したインフルエンザワクチンと同じ型だが違う株のものにかかってしまった
- 接種したインフルエンザワクチンと同じ型だが変異したものにかかってしまった
などの理由が考えられます。
予防対策をしっかりとしよう
インフルエンザワクチンを接種することで重症化を防ぐことはできますが、前述したようにそれでも罹患してしまう可能性はあります。ワクチンを打つだけでなく、予防対策をしっかり行うことがまず大切です。
手洗い、うがい、マスク着用などはもちろんですが、インフルエンザは家庭内で感染してしまうことがとても多いため、家族全員での対策が重要です。
妊婦本人だけでなく、同居家族全員がインフルエンザワクチンを接種し、バランスの良い食事やじゅうぶんな睡眠による体づくり、部屋の乾燥対策なども行うことで予防効果はぐっと高まります。
インフルエンザかな?と思ったら
もしインフルエンザを疑う症状が出た場合、すぐに診察を受けるのはもちろん大切なこと。
その場合、ついかかりつけの産婦人科を受診しようとしてしまう人もいるかも知れませんが、ほかの妊婦への感染を防ぐため、また適切な診断と処置を受けるために、内科を受診してください。
授乳婦の場合
ちなみに授乳中にインフルエンザになってしまった場合、母乳を介して赤ちゃんにウイルスが感染してしまっているのではないかと怖くなってしまいますよね。
母乳で感染する?
インフルエンザウイルスは気道の粘膜で増殖するため、血液中に大量のウイルスが出現することはなく、血液から作られる母乳は感染の原因となることはありません。
しかしインフルエンザは飛沫感染するため、授乳やおむつ替えなどのお世話による接触により赤ちゃんに伝染します。そのため母親がインフルエンザの症状を自覚した段階で、赤ちゃんにもウイルスが感染している可能性はじゅうぶんにあります。
感染したら母乳育児は止めるべき?
自身や赤ちゃんが罹患したら母乳育児を中断しなくてはいけないかというとそうではなく、むしろ赤ちゃんは母乳から栄養や免疫を獲得するため、継続して母乳を飲ませたほうが良いと言われています。
前述したように、抗インフルエンザ薬を飲んでいても授乳して大丈夫であると考えられています。母乳を介した赤ちゃんへの薬の影響はないとされており、その限りなく低い危険性よりも母乳を飲ませるメリットのほうがはるかに大きいためです。
まとめ
毎年猛威を振るうインフルエンザ。インフルエンザワクチンの接種や抗インフルエンザ薬を妊娠中授乳中に使用しても良いことを知らない人は案外多いものです。
いずれも重症化を避けるためには有効なアイテムですから、医師の指示に従って正しく利用し、家族ぐるみで予防に励んで元気にシーズンを乗り切りましょう!