【専門家監修】妊娠中毒症とは?妊娠高血圧症候群の症状や対策を解説

助産師・浅井貴子先生による監修記事です。
近頃は耳にする機会の減った「妊娠中毒症」という名称ですが、実は2005年4月から「妊娠高血圧症候群」という名称に変わっています。
ドラマ化もされた医療漫画”コウノドリ”で大きく扱われたこともあり、聞き覚えのある人も多いのでは。
今回は、そんな妊娠中毒症の症状を中心に、予防法や治療法なども分かりやすく解説していきます。
現在妊娠中の人や、妊娠を希望しているという人は特に読んでみてください。
妊娠中毒症とは?
妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)は、妊婦さん全体の5%(20人に1人)が発症するマタニティトラブルです。
妊娠を継続していくうちに何らかの要因で血圧が上がってしまうのが、そもそもの症状です。
妊娠前や妊娠初期からの高血圧は含まれず、安定期に入る妊娠20週以降に発症したものを指します。妊娠状態でなくなると正常値に戻るのも特徴で、産後12週までの間に回復するケースがほとんどです。
診断の方法や基準について
サインとなる自覚症状がほぼ無いのが、妊娠中毒症の怖いところ。
診断時は「血圧が収縮期140mmHg以上、あるいは拡張期90mmHg以上」という数値を基準にします。当てはまると妊娠高血圧症候群の診断がつき、悪化を防ぐための指導が行われます。
妊娠中毒症の診断に最も大切な血圧の測定は、妊婦検診で毎回必ず行われるものです。
なので、時期に合わせた間隔できちんと検診を受けるようにしてください。少しでも早く血圧の上昇に気付けたら、そのぶん早く対策をスタートできますよ。
また、触診によるむくみの確認も一つの目安になります。ただし、妊娠中は普段よりもむくみやすい状態になっているので、一晩休めば落ち着く程度なら気にしすぎなくて大丈夫です。
ちなみに、妊娠中毒症は尿蛋白も出やすくなります。高血圧と合わせて「++の判定」あるいは「+判定が複数回」という結果になると「妊娠高血圧腎症」の診断になります。
原因はなに?
ハッキリとした原因は、今のところ不明です。
以前は、胎盤から出る毒素が原因と考えられていたために「妊娠中毒症」という名前でした。現在は高血圧が原因で諸症状が引き起こされていることが分かり、「妊娠高血圧症候群」へと名称が変わっています。
傾向としては、通常の高血圧症候群と同様に”親族に高血圧の人がいる”などの遺伝的な要素でかかりやすくなることが分かっています。
また、妊娠前からの既往症によって、発症のリスクが高まるケースも多いようです。
妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)になりやすい既往症や条件
- 糖尿病
- 高血圧
- 腎臓病
- 肥満
- 多胎妊娠
- 高齢妊娠
- 血縁者に高血圧患者がいる
- 以前も妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)になった
医師や看護師、助産師による問診などでも確認されますが、該当するものがある方は初診時に必ず伝えておくようにしましょう。
加えて、母子手帳にも既往症を明記し、外出時には持ち歩くようにしておくと万が一の際にも安心です。
妊婦検診で早期発見を
妊娠時に血圧が上昇してしまう現象の根本的な原因が分からないので、妊娠中毒症を確実に予防する方法も現状では不明となっています。
しかし、推奨された時期と内容での妊婦検診を毎回きちんと受ければ、早い段階で高血圧の予兆や症状を確認することは可能です。軽症のうちに治療や対策を始められれば、それだけ様々なリスクも軽減できます。
検診は時間や金銭面での負担もありますが、自己判断で休んだり時期をずらしたりしないようにして、頭痛などの高血圧にありがちな症状が出れば健診以外にも受診するようにしましょう。
既往症や条件が当てはまって高リスクとして判断された妊婦さんは、症状が出る前から予備軍として指導が入る場合もあります。
カロリーや塩分量をコントロールしたり、血圧を下げる栄養素として知られる”カリウム”の摂取を意識したりするのが一般的。併せて、家庭での血圧測定や体重管理、運動や就労の制限などが行われるときもあるようです。
妊娠中毒症の治療方法は?
現段階では、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)を根本的に解決できる治療方法は確立されていません。そのため、治療は血圧のコントロールをしながらリスクの管理を行うことになります。
一般的な高血圧症では降圧剤の投与が最も有効ですが、妊娠中毒症では胎児に影響が出てしまうため、使える種類に限りが。
なお、診断後の治療には健康保険の制度が適用されます。
軽度は経過を見ながら
軽度の場合は基本的に、通院での経過観察と食事療法が行われます。食事は1日1,800Kcalまでを目安にカロリー制限をし、塩分摂取は1日8~10gが目安です。
また、血圧は活発に動き回るよりも安静にしていたほうが下がりやすい傾向があるため、自宅安静の指示が出るケースも。
医師によっては、ホルモン療法を取り入れていることもあります。
重度は入院が基本
血圧が特に高い場合や合併症を発症していて状態が良くない場合は、医師によるシビアな判断が必要になります。母体と胎児の状態を定期的に診察し、少しでも早く状態の変化に気付けるように入院での治療となる事例が多いです。
血圧をコントロールするために、降圧剤の使用やマグネシウム投与という選択肢もあります。
それでも経過が思わしくなく、これ以上の妊娠継続は危険と判断されると、帝王切開での出産がおこなわれます。妊娠中毒症は、出産をしてしまえば産後12週以内に状態が改善することが多いためです。
しかし、正産期前の手術になると必然的に赤ちゃんが低出生体重児になってしまうので、様々な処置をしながら少しでも長くお腹の中で赤ちゃんを育てられるのがベター。
ほかにも、高血圧が原因で赤ちゃんの発育不良が続くときも、予定日より早く分娩する判断が出る場合もあります。
重症化のリスクとは?
妊娠中毒症は週数が進むにつれて重症化していくこともあり、合併症を引き起こすなど、妊婦さんや胎児に悪影響を及ぼす危険性が高まります。
重度の妊娠高血圧症候群と判断されるのは「収縮期血圧が160㎎以上、もしくは拡張期血圧が110㎎以上」という数値が基準です。母子共に命の危険にさらされるリスクがとても高いので、迅速な判断と対処が求められます。
胎児への影響
母体の高血圧状態が続くと血流が滞り、お腹の赤ちゃんへの栄養供給が十分にできなくなります。その結果として発育不良が起こり、低出生体重でのお産になりやすくなる傾向が。
身長体重が小さいだけでなく臓器の発達にも遅れが出るため、何らかの障害を持って生まれる可能性もあります。
さらに、十分な酸素が胎児へ行き届かないといった致命的なトラブルが起きると、胎児切迫仮死という非常に危険な状態になる事もあります。
合併症が起こりやすい
重症化した妊娠中毒症によって血圧が高い状態が続くと、お母さんの身体に合併症が起こることも珍しくはありません。
母子ともに死亡リスクのある「胎盤の早期剥離」のほか、脳・肺・肝臓・腎臓など様々な臓器でのトラブルが考えられます。
妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)で起こる可能性のある合併症
- 痙攣
- 脳出血
- 肺水腫
- 肝機能障害
- 腎機能障害
- HELLP症候群
- 血栓
- 胎盤の早期剥離
対処が遅れると産後12週を過ぎても高血圧が続くなどの後遺症が残る可能性が。場合によっては死亡してしまうケースもあるため、特に注意が必要とされています。
まとめ
妊娠中毒症は決して珍しいものではなく、確実な予防法も無いため誰にでも起こりうるマタニティトラブルです。きちんと妊婦検診を受けていれば早期の発見と対処は可能なので、指示されたタイミングで検診を受けるようにしましょう。
既往症などで高リスクと判断される場合は、自宅でも血圧を測る習慣をつけておいてもいいかもしれません。
そして、もし発症してしまったときは楽観視せず、医師の指示に従ってくださいね。
勤労妊婦さんや立ち仕事やストレスが多い人に罹りやすいので、オーバーワークにならないように職場にも申し出る事も必要です。
1日で横になる回数を多くして、ストレスを溜めない様に気を付けましょう。