【専門家監修】臨月にスクワットして大丈夫?その効果や注意点を解説

助産師・浅井貴子先生による監修記事です。
妊娠がわかってから約9か月、家族で赤ちゃんの誕生を待ちわびてきました。母親のみなさんは、つわりや切迫流産、早産、むくみや食事制限など様々な困難を乗り越えて臨月を迎えたことでしょう。正産期になればいつ生まれても大丈夫!早く赤ちゃんに会いたいと考えるのは当然のことです。
そこで、多くの母親たちが実践するのが「臨月のスクワット」。今回は臨月にスクワットする効果やその危険性、臨月スクワットの方法について解説します。早く赤ちゃんに会いたくてスクワットを検討している人は、ぜひ参考にしてくださいね。
臨月スクワットってなに?陣痛を促すことができるの?
臨月スクワットとは、安産のため、陣痛を促すためなどの目的で臨月に行われるスクワットのことです。「臨月スクワット」と呼ぶときは、陣痛を促すためのスクワットを指すことがほとんどです。
「一刻も早く赤ちゃんに会いたい」と考える母親たちの多くが、臨月にスクワットしたり、階段昇降運動をしたりすると、「陣痛が促される」と考えています。
ほかにも、
「トイレ掃除が効果的」
「雑巾がけをするといい」
「特定の栄養ドリンクを飲んだら陣痛が来た」
「焼肉を食べるといい」
などのジンクスが有名です。
では、これらの行為で本当に陣痛が促されるのでしょうか。結論からお話しすると、どんな運動をしても陣痛が促進されることはありません。
産婦人科で「正産期になったら運動しましょう」などと言われますが、これは”よく動いていた人はお産が軽くなる”と昔から経験則として言われることが多いためです。運動と陣痛促進の因果関係はまだ証明されていませんので、「陣痛のため」と必死にスクワットをする必要はありません。
自分でできて、医学的に陣痛を促すことができるのは、現在のところ、「乳頭刺激」だけと考えられています。授乳のためのおっぱいマッサージで、乳頭を刺激すると子宮を収縮させるオキシトシンというホルモンが分泌されるためです。
「陣痛を促進したい」のであれば、乳頭マッサージのほうが効果的ですね。ただし、乳頭マッサージは子宮の収縮を促すため、医師や助産師の許可を得てから行うようにしましょう。
臨月スクワットの効果は陣痛促進ではなく安産
では、臨月スクワットは無意味?かというとそうでもありません。スクワットや雑巾がけは、スムーズな出産に一定の効果があると考えられています。
骨盤底筋が鍛えられて安産効果が期待できる
スクワットによって、鍛えられる筋肉は腹筋、背筋、足の筋肉だけではありません。出産の際に活躍する骨盤底筋も鍛えられるため、お産がスムーズに進みやすくなります。
骨盤底筋が鍛えられて産後の尿漏れを予防できる
骨盤底筋は、膀胱や子宮などを支える筋肉です。産後はホルモンの関係で骨盤が緩みやすく、尿漏れや子宮脱などを引き起こす可能性があります。
しかし、骨盤底筋を鍛えておくことで尿漏れなどのトラブルのリスクを軽減可能です。
出産のための体力づくり
スクワットによって筋肉をつけることは、出産のための体力作りに効果的です。医師によっては、妊娠中を通じて身体に負担がかからない運動をすることを推奨していることもあります。
しかし、臨月はお腹が大きく、屋外での運動が難しいことも。夏は熱中症が不安ですし、冬は冷えによる免疫力の低下や風邪が心配です。
でも、屋内でのスクワットであれば、身体を大きく動かすこともなく外気にさらされることもないので安心ですね。
臨月のスクワットはどうやればいい?
臨月スクワットは、陣痛を促進する直接的な効果はないものの、お産がスムーズに進みやすくなったり、尿漏れを予防できたりとメリットはたくさん。「挑戦したいな」と思った人は、ぜひやってみましょう。
臨月スクワットは手すりや机、壁を利用して転倒を防止する
通常のスクワットは、何を持たずに行うことがほとんどですよね。手を胸の前で組んだり前に伸ばしたりしてやることが多いと思います。
でも、臨月のお腹はとても大きく重く、転倒のリスクがあるため手を離してスクワットをするのは厳禁です。転倒のリスクがないように、必ず机や手すりにつかまるか、壁にもたれた状態で行いましょう。椅子の背もたれは重さに耐えられず転倒するおそれがあるので、ひっくり返る危険性がないものをつかみましょうね。
臨月向けのゆるいスクワットの方法
※ 机や手すりをつかんだ状態、または壁に背中を預けてもたれた状態ですべて行う
- 両足を肩幅よりも少し広めに広げ、つま先をやや外側に向ける
- 背筋をのばしたまま、息を吐きながらゆっくりと腰を下ろすように膝を曲げてゆく
- つらくない程度膝を曲げたら一呼吸置き、息を吸いながらゆっくりと元の姿勢に戻る
ポイントは下記の通り。
- 膝を曲げる際つま先立ちにならないこと
- 壁にもたれない場合は、なるべく上半身を傾けずまっすぐ腰を下ろすように意識すること
トレーニング用語では「ワイドスクワット」という名称になります。これを5回繰り返して1セットとするところから始めてみましょう。慣れてきたら1セットの回数を10回程度に増やしてみても。
1日に1セットから3セットが基本です。ダイエット用の筋トレではないので、無理のない範囲で継続することが大切。臨月はお腹も重く、浅くしかスクワットをできないかも知れませんが、できる範囲で大丈夫です。
臨月スクワットに危険はないの?5つの注意点とは
臨月スクワットに危険が全くないというとそういうわけでもありません。
臨月スクワットを行う際の注意点をまとめておきますので、スクワットを始める前に必ず目を通しておいてくださいね。
注意点その1:正産期に入ってから行うこと
臨月スクワットは「臨月」と言っていますが、臨月は36週から40週までを指します。それに対して正産期とは、37週から41週までです。つまり、36週で出産すると「早産」になってしまいます。
スクワットに陣痛を促進する効果は期待できないとされているものの、お腹が張ってしまうおそれはありますのでお腹が張りやすい人は正産期前に行うのは避けたいところ。
臨月スクワットは37週に入ってからスタートしましょうね。
注意点その2:破水したらすぐ病院に連絡すること
もしスクワット中に破水したら、すぐに病院に連絡をして指示を仰ぎましょう。そのまま入院することになりますので、用意してある入院セットを持って行きましょう。シャワーを浴びるのは厳禁です。胎児が細菌に感染するおそれがあります。
また、破水したら動き回るのも厳禁。羊水がさらに流れ出してしまいます。
注意点その3:陣痛かも?と思ったら電話で確認
もしスクワット中にお腹が張り、規則的に痛みを感じ始めたら病院に連絡しましょう。
初産婦か経産婦などによって病院に行くタイミングが異なりますので、陣痛がスタートしたと感じたらまずは病院に電話をして指示を仰いでください。「5分おきになったら連絡をして病院に来てください」と言われることが多い傾向です。
注意点その4:おしるしが多い、塊状の出血があった、持続的な痛みがある場合
生理よりも多い出血、塊のような出血があった場合は、ただちに病院に連絡してください。持続的な痛みがある場合も同様です。すぐに病院に来るようにと指示される可能性もあります。
注意点その5:妊娠経過に問題がある場合は医師に事前相談を
切迫早産等で安静を命じられている場合や運動を禁じられている場合は、臨月に安静や運動禁止が解除されることがあります。
しかし、日常生活以上に負荷がかかる運動は避けるようにと指示される可能性もありますので、念のために主治医にスクワットをしてもよいかどうかを確認しておきましょう。
まとめ
長い間妊婦さんの間で「スクワットをしたら陣痛が来る」というジンクスが信じられていましたが、臨月スクワットが「陣痛を促進する」という医学的に明確な根拠はありません。
しかし、安産になる、産後の尿漏れを防げる、出産のための体力を作ることができるなどのメリットもたくさんあります。
妊娠中の体力作りのために臨月スクワットを考えている人は、無理のない範囲で安全を確保して行ってくださいね。破水や出血などの異変があった場合は、ただちに病院に連絡して指示を仰ぎましょう。
妊婦さんの身体には個体差がありますので、何事も始めるときは主治医や助産師さんに相談し、安全に留意してから家族の方がいるときにやりましょう。